大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)886号 判決

控訴人(原告) 溝畑馨二 外三名

被控訴人(被告) 最高裁判所

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は原判決を取消す、被控訴人が昭和二九年三月六日付をもつて控訴人等それぞれに対してなした懲戒処分はこれを取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張竝に証拠の提出、援用、認否は、つぎの点を附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

第一、控訴人等の主張

一、控訴人は従来の主張のうち、つぎのとおり訂正する。

1、原判決七枚裏四行目以下「控訴人溝畑が昭和二八年七月一四日午前一〇時から同一二時までの間職場を離れて組合事務所にいた事実は認める」とあるを、「昭和二八年七月一四日午前九時頃より午前一〇時過までの間拡大闘争委員会が開催されたのであるが、控訴人溝畑は午前九時半頃より一〇時過頃までこれに出席してその間職場にいなかつたことは認める。」と改める。

2、原判決八枚裏一三行目以下「控訴人高津が昭和二八年七月一二日松本美奈子方を訪れ、支部組合の方針に基いて受験しないように説得し同月一三日のピクニツクに誘つた事実は認める。」とあるを「控訴人高津は雇見習から頼まれて昭和二八年七月一二日松本美奈子と話合つた結果一三日梅田で落合うことになつたのみでピクニツクに誘つた事実は否認する」と改める。

二、控訴人等はその主張の取消理由につき更に次のとおり補足する。

(一)  国家公務員法(以下国公法と略称する)第八四条第二項の解釈について、

(1) 人事院(本件ではその地位を肩替りした最高裁判所、以下同じ)が任命権者をさしおいて自ら懲戒権を行うことは国公法の立法趣旨および人事院の基本的性格に反する。すなわち国公法は職員の福祉及び利益を保護し、その身分を保障することがその最も重要な目的であり(国公法第一条)、人事院はこの目的を完全に達成することを主たる使命として設置された(国公法第三条)ものである。そして人事院の職務権限は「公務員の利益を保護する責任を有する機関」(人事院の前身たる臨時人事委員会)としての歴史的基本的性格によつて制約され、その使命を遂行するため国家公務員の人事行政に関する統一的綜合機関として職員全体に通ずる方針、基準、手続規則及び計画を整備、調整、総合および指示し、且つ立法その他必要な措置を勧告すること(国公法第三条)が任務であつて、この範囲を出でないのである。従つて人事院はこれ等一般的事項について他の行政庁に助言し、指示もしくは勧告することはできるが他の行政庁がその権限に基いて行う個々の具体的処分に直接介入したりこれに命令するが如きことは人事院の性格に反する。とりわけ他の行政庁の個々の職員に対する懲戒処分をば任命権者の意思をさしおいて行うが如きことは人事院としてはおもいもよらぬことである。なぜなら懲戒は任命権者の意思ないし裁量の最も尊重される特殊な行為であつて、行政上の直接監督権を有する上級庁といえども容喙することを許されない建前であるのに(国公法第八四条第一項)、直接監督権を有しない人事院がかような権能を行使することは、法律上も事実上も絶対に不可能であるからである。従つてこの点において裁判所職員臨時措置法により人事院の地位を肩替りした最高裁判所は司法行政上の最上級庁たる意味における最高裁判所ではないということを留意さるべきである。

(2) 更に以上のことは国公法第八四条第二項が「懲戒手続に付する」となし、「自ら懲戒処分を行う」とは規定していないことからも明らかである。懲戒処分を自ら実施する場合には「付する」という言葉を通常の用語例からは用いないからである。従つて「懲戒手続に付する」とは、懲戒処分を目的とする一連の手続を開始するため適当な機関にかけるという意味にほかならない。

(3) 「この法律に規定された調査」の意義については国公法第九一条による調査を指すものであることは原審において主張したところである。然るに、原判決は人事院が行政庁の人事に関する最高機関であるという建前で本条に謂う調査を国公法第一七条の調査を指すものと判示したが、人事院は前述したようにその基本的性格に制約された後見的ないし監察的機能を有するに過ぎないのであつて人事行政に関しても他の行政庁を指揮監督するような最高機関でも監督機関でもない。かりに監督に類似する権限を有しているとしてもそれは原判決も認めるように一般的なものに過ぎないのであつて個々の職員の懲戒事由について調査する権限をそこから導き出すことは不可能である。従つて国公法第八四条第二項に謂う調査は同法第九一条の調査以外にはないのである。国公法第一七条は人事院の他の行政庁またはその職員に対する優越的な地位や権限を定めたものでなく単に人事院自身の職務に附随する一般的調査権と調査の方法について規定したものであり、懲戒事由の調査に関係はない。

(4) 仮に本条の調査が国公法第一七条の調査を指すと解するとしても第一七条の調査は裁判所法第八〇条の監督権に基く調査とはその内容および方法を全く異にするから、最高裁判所が国公法第八四条第二項に基く権限を行使するに当つては事前に国公法第一七条の如き規定(内容の真実性を担保したもの)を整備しなければならないのであつて、それを怠つたまま右の権限を行使したのは明らかに違法である。

(二)  原判決は国公法第九六条および第九九条の適用を誤つている。

原判決は控訴人等の処分の理由となつた各第一の所為を他人の受験志望を放棄せしめたものとなし、国公法第九六条、第九九条を適用しているが公務員が昇任試験を受けることが何故「特別権力関係に基く公法上の権利」となるのか、また右権利の行使を妨害する行為が何故に「公共の利益に反し」また何故に「官職の信用を傷つける」かを具体的に説明していない。

昇任試験を受ける資格が特別権力関係に基く公法上の権利であるか否かはしばらく措くとしても、それが義務を伴わない純然たる権利であること、しかも個人の権利であることは確かである。権利の抛棄によつて損害を被る者は権利者だけである。仮に何等かの事情で権利者以外の者の利益が害されることがあつても、その責を権利者に帰せしめてはならない。それは権利の性質上当然の事だからである。この意味において有資格者の受験拒否は公共の利益に反することにならない。また他の公務員が受験を妨害した場合にも公共の利益に反しないことは右と同様である。ただその妨害の方法が不当もしくは不法である場合にその行為が非難され妨害者自身の信用または名誉を傷つけることがあるに過ぎない。控訴人等の所為は労働組合活動の一環としての説得行為をなしたもので、その説得行為は相手方の自由意思の尊重を前提とするものであり組合活動のうちで最も平和的なものとして広く認められているのであつて、その適法性を疑うものはあるまい。原判決は、控訴人等の行為が反社会性のない私行であるに拘らず、ことさらに「特別権力関係に基く公法上の権利云々」の表現を用いることにより強いてこれを第九九条に結びつけようとしたものである。

(三)  原判決が控訴人圓尾の請求を棄却したのは国公法第八四条第一項に違反し、司法裁判所が自ら行政処分を行つたことに帰着するので違法である。

司法裁判所は特定の行政処分が違法であると判断したときは之を取消すことができるが、自ら新たな行政処分を行うことはできない。

ところで控訴人圓尾に対する処分事由は第一、訴外松本美奈子に対し受験の志望を抛棄させたこと、第二、七月一四日午前の職場離脱、第三、同日午後の職場離脱の三点であるところ、原判決の認定は右三点のうち第三の所為が事実無根であることを明らかにした。而して本件懲戒処分の事由たる右三個の行為のうち第一、第二の所為だけが残つた現在、その二個の所為だけでも原処分が相当であるとして右控訴人の請求を棄却した原判決は第一、第二の所為のみを処分事由とする新たな懲戒処分を自ら行つたにひとしい。かくては前記三個の行為を綜合して一個の処分を決定した原処分の趣旨を没却し任命権者の懲戒権を著しく侵す結果となるからである。

(四)  勤務時間中の職場離脱に関する上司の許可について

原判決はその理由において石倉書記官が控訴人溝畑に対しまた岡本書記官が控訴人大鹿に対しそれぞれ職場離脱を許可する権限を有しなかつたと判示した。しかしながら、最高裁判所通達(昭和二四年八月八日人一第一六〇〇号)「裁判所職員の服務に関する準則」の五によつても、職場離脱に関する許可の権限は直近上級監督者にあること明らかであり、また大阪地方裁判所を含めて各裁判所の慣行としても直近上級監督者が許可を与えていたのである。そしてこの許可は黙示であることもあり、包括的であることもあり、結局行き先を同僚につたえておけばよろしいという程度にまでなつていたのである。右離席の許可にあたつては、組合の用務であろうと私用のため(理髪、来客等)であろうと、その点による差別は何等意識されていなかつた。

控訴人等としては離席について他の職員と全く同一に行動していたにすぎない。そのうち控訴人等に対してのみ厳しく離席の手続についてその責を問う如き処分をなすことは許されない。

第二、被控訴人の主張

一、控訴人等の当審における前示主張の訂正は従来の自白の撤回となるもので之に対しては異議がある。

二、控訴人等の二、の(三)の主張について

司法裁判所が行政訴訟において行政庁の処分が違法であるか否かを審理裁判するに当つて、違法の理由として当事者間に争われる主張のうちのあるものについて、その存在が認められる場合であつてもその理由だけでは当該処分の違法を来さないと判断される場合には行政処分を取消すべきでないことはいうまでもない。控訴人圓尾和子に対する原判決の判断も、前記昭和二八年七月一四日午後の職場離脱の事実が認められないとしても、他の処分事由たる事実が認められ、且つその理由によつて同控訴人を懲戒免職することが適法である以上、本件処分は結局適法であり、違法のものでないから、取消を求める控訴人の請求を排斥したのであつて司法審査当然の職分に属する判断であり、控訴人主張のように裁判所が自ら行政処分を行つたものでないことは疑を容れない。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

当裁判所も被控訴人がなした本件懲戒処分を違法として取消を求める控訴人等の本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断するものでその理由は次の点を附加訂正するほか原判決理由において説示するところと同一であるから茲に之を引用する。

一、原判決理由中本件処分の理由となつた控訴人等の所為のうち

(1)  控訴人溝畑馨二 イ、処分の理由第一についての項(原判決一九枚裏一三行目)の次に

「なお控訴代理人は、控訴人溝畑が昭和二八年七月一四日午前一〇時から同一二時までの間職場を離れて組合事務所にいた事実を認めていたが当審において右事実を撤回し、同控訴人が午前九時半頃から一〇時頃まで職場を離れた事実のみ認め、その余の事実を否認し、之に対し被控訴代理人は右自白の撤回に異議を述べて争うのでこの点につきみるにこの点の当審証人古元秀明の供述によるも右自白が真実に反しかつ錯誤によつてなされたものとなし難くその他これを認むべき証拠はないので右自白の取消は採用しなかつた。仮に控訴人溝畑の職場離脱の時間に多少の認定の差があつたとしても同控訴人に対する処分を違法であるとして取消の理由となすに足らない。」と挿入する。

更に原判決二〇枚裏一八行目の次に「ホ、以上イ、ロ、ハの認定事実に反する当審における証人古元秀明、同福井弘の各供述部分は措信し難くその他当審における新たな証拠も右認定を左右するに足らない。」を挿入する。

(2)  控訴人圓尾(高津)和子 イ、処分理由第一について、の項(原判決二一枚裏一二行目)の次に

「控訴代理人は、控訴人圓尾が昭和二八年七月一二日松本美奈子方を訪れ、支部組合の方針に基いて受験しないよう説得し同月一三日ピクニツクに誘つた事実を認めたが、右自白を撤回し、同人は松本と話合の上梅田で落合うことを約束したのみでピクニツクに誘つたことはない、と主張事実を改めたのに対し被控訴代理人は右自白の撤回に異議を述べたのでこの点につきみるに、この点に関する当審における控訴人圓尾和子本人尋問(第一回)の結果によるも右自白が真実に反し、かつ錯誤によるものとは認め難く、その他これを認むべき証拠はないので右自白の取消は採用しなかつた。」と挿入する。

ロ、第二について、の項末尾(原判決二二枚表五行目(同ページ一五行目))に「右認定に反する当審証人山田久一の供述並当審における控訴人圓尾和子の供述部分は措信し難く、その他当審における新たな証拠も右認定を左右するに足らない。」と挿入する。

ハ、第三について、の項全部(原判決二二枚表六行目(同ページ一六行目)から一六行目まで)を削除し次の点を挿入する。

「原審における証人西山要の証言、原審における証人塩谷公男の供述部分竝びに成立に争のない乙第四四号証(西山要の聴取書)、原審証人中村弥一の証言と原審における控訴人圓尾(高津)和子本人尋問(第二回)の結果を綜合してその成立を是認すべき乙第四五号証(控訴人圓尾の作成したメモをそのまま中村弥一が筆写したもの)と綜合すれば、控訴人圓尾和子は原判決理由の(一)1、(3)に認定したように昭和二八年七月一四日午後零時一五分頃から大阪高等裁判所事務局長室において西山局長に面会を求めた支部組合員等の一員として参加したものであるが、その際一時五〇分頃同局長が退出命令を発したにも拘らず二時二〇分頃局長自ら退室するに至るまで同室より退去せずその間自己の職場を離脱していたものと認められる。

控訴人圓尾は右事実を否認し、同日午前一〇時過頃から退庁時刻まで大阪簡易裁判所で執務していた旨主張する。そして成立に争ない甲第三一号証の一ないし一三(即決和解調書)同第四六号証(証明書)の記載によれば同控訴人は大阪簡易裁判所法廷において書記官補として同日午後一時事件の呼上をなした即決和解申立事件一三件に立会つたことになつている。然し事件が真実右時刻より遅れて開廷せられても調書上は期日指定をした時刻を一律に記載していることは裁判所において応々にして行われていることに属し、また、即決和解は事実上当事者間において和解条項を作成して申立をなす関係上極めて短時間に終了する事件が殆ど全部であるから右一三件の処理のため長時間に要したものとも考えられない。従つて右書証の存在によつて同控訴人が前記認定の時間局長室に在室しなかつたものと認めねばならぬ根拠とはなし難い。右認定に反する原審竝びに当審における控訴人圓尾和子本人尋問の結果は右認定の各証拠に対比して措信し難く、当審における証人池長秀吉及び証人山田久一の各供述によるも右認定を左右するに足らず、その他控訴人の主張事実を認むべき証拠は存しない。而して右の如き勤務時間中に職場を離脱しての活動が正当な組合活動とは認め難く、かつ職場離脱につき上司の許可その他正当の事由のあつたことについては何等の主張立証はない。

よつて控訴人圓尾は右午後一時五〇分頃から同二時二〇分頃まで上司の許可なく、かつ何等正当の事由なきに拘らず職場を離脱したものというべきである。」

控訴人山田(大和)千恵子の処分理由の項末尾(原判決二五枚表一四行目)の次に

「二、以上認定のイ、ロ、ハ、の各事実に反する当審における証人塩谷公男、同古元秀明、同山田久一、同池長秀吉、同板谷(清水)一子の各供述部分竝びに当審における控訴人山田(大和)千恵子本人尋問の結果は前記認定の各証拠と対比して措信し難くその他右認定を覆えすに足る証拠はない。」

原判決理由3、のうち原判決二五枚表一五行目(同ページ一六行目)「以上のとおり」から一七行目(同ページ一七行目)「認定することができる」までを削り「以上のとおり控訴人等の処分理由はいずれも被控訴人主張のとおり認定することができる」を挿入する。

また原判決二五枚裏二行目「また」から「第九十九条に違反し、」までを削り、「前記認定の方法により他人の受験志望を放棄せしめた点は国公法第三九条第二号又は第四一条に違反し」と挿入する。

二、控訴人等は当審において更に原判決が示す取消理由につき論難しているのでこの点につき附演する。

(1)  国公法第八四条第二項の解釈について

懲戒処分の権限は控訴人等主張の如く必ずしもその性質上任命権者に専属すべきものとなすを要しないし、また同法第八四条第二項の「懲戒手続に付することができる」との趣旨を人事院が自ら懲戒処分をせず、懲戒処分を目的とする一連の手続を開始するため適当な機関にかけるものとのみ解さねばならぬ理由もない。人事院も一般職に属するすべての公務員に対し懲戒権を有するものと解すべきである。このことは同法第八五条に、「人事院は「中略」懲戒手続を進めることができる」と規定していることからも窺われるところである。ただ異なるところは任命後の職務の執行について直接の監督の責任を負つているのは任命権者であるから任命権者による懲戒は特別の場合(教育公務員特例法第九条)を除き事前手続としての審査を必要としないのに対し、人事院による懲戒はこの法律に規定する調査を経てなすべきものとする点である。而して人事院は、右趣旨における懲戒権を有するほか、控訴人等主張の如く公務員の利益を保護する責任を有する機関であることに鑑み、一定の処分が行われた後にその職員が不利益処分として審査の請求を為したときは口頭審理の下種々調査を行いその結果に基づいて原処分を或は承認し、或は修正する等一定の処分をなすことができる。このように人事院は懲戒処分権を前者におけるが如くいわゆる始審的手続として、また後者におけるが如くいわゆる覆審的手続として行われる場合があるということができるのであつて、始審的手続における調査が国公法第一七条による場合であり、覆審的手続における調査が同法第九一条による場合であると解すべきである。控訴人等主張の如く国公法第八四条第二項の調査を既に処分を受けた職員の存在を前提として定めた同法第九一条の調査に限定することは処分に先行する調査に適合しないこと明らかであるから右主張は採用し難い。尤も上級行政庁としての最高裁判所は人事院と異なり裁判所法第八〇条により下級裁判所及びその職員の司法行政上の監督権を有するものであるから、処分に先行する調査につき、右監督権を発動しあらゆる調査をなし得るもので控訴人主張の如きその調査の内容に制約があるものとは解せられないこと原判決説示のとおりであるから被控訴人が懲戒権を行使するにつき国公法第一七条の規定の準用ないしは同法条に相当する規定の整備をまつを要しないものというべきである。以上のとおりであるから控訴人等のこの点に関する主張は理由がない。

(2)  控訴人等の前示処分理由となつた所為中控訴人等の夫々第一の所為について

控訴人らは原判決が右所為を何等の具体的理由も示さず公共の利益に反しかつ官職の信用を傷つけるものとして国公法第九六条、第九九条に違反すると認定したことはその条文の適用を誤つたものと主張する。

併し控訴人等の右各所為は前記認定の事実のとおり国公法第三九条の何人も試験の志望の撤回、又は任用に対する競争の中止を実現するために強制その他これに類する方法を用いたり、あるいはこれ等の行為に関与してはならないとの禁止規定又は、同法第四一条の職員は受験若しくは任用を阻害してはならないとの禁止規定に違背したものとなすを妨げない。而して右規定に違反した者には罰則の適用(国公法第一一〇条)があることに着目すれば右違反の所為が公共の利益に反しかつ、官職の信用を傷つけるものであること疑がない。

従つて右各所為を前認定の如く国公法第三九条ないし第四一条に違反するというも、また原判決認定の如く同法第九六条、第九九条に違反するというも結局控訴人等の所為は同法第八二条一号三号に該当するものというべきであるからこの点の控訴人等の主張も理由がない。

(3)  控訴人等の前示二、の(三)の主張について

右主張は原判決において控訴人圓尾に対する処分事由第一の所為を失当と認めたことを前提としてなすものであつて、右所為を処分事由として認定した当審においてはこの点に対する判断をなさない。

(4)  職場離脱について

当審における証人石倉竝証人岡本の供述によるも石倉書記官が控訴人溝畑に対し、また岡本書記官が控訴人大鹿に対しそれぞれ職場離脱を許可する権限を有したとは認められない。尤も右証人の証言によると勤務時間中私用(理髪とか来客)のため職場を離れる際同人等の明示又は黙示の承諾を得ていたことが認められ、それが許可を有する直近上級監督者の暗黙の諒解として解し得られないこともないが、本件における場合の如き職場離脱においてはそのように解することはできないし、また許可をする筈もないこと明らかであるからこの点に関する控訴人等の主張も採用の限りではない。

以上のとおり原判決認定と一部異なるところがあるが結局結論において同一であり本件控訴はいずれも失当として棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菊池庚子三 加藤隆司 宮崎富哉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例